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ぼくはメガネザル、そしてメガネバカ。
ぼくが初めてメガネをかけたのは小学校3年生。当時はメガネが珍しい時代。
『メガネザル』とからかわれて、つらい思いもいっぱいした。
背も低く体力もなく、気の小さい当時の僕がメガネなんかで目立ったおかげで、いじめの対象になった。
とにかくメガネは見えないから仕方なくかけているもの。掛けてうれしいなんて思ったこと、これっぽっちもなかった。
当然コンタクトレンズにした中学生の時からはほとんどメガネなんてかけなかった、本当に家の中だけ。
だけど大学2年の時、究極の選択を迫られた。
「ソフトコンタクトレンズで0.8程度の見え方で生活するか」
「メガネでしっかり見えるようにするか」
本当に、本当に真剣に悩んだ。視界は狭いし、目が悪く牛乳瓶の底のような厚さのレンズになっていたし、メガネをかけると眼が小さくなるし。そしてダサい。
だから「メガネはかけたくない」
それが今では「メガネをかけなきゃ、人前に出れない」
「ぼくにとってメガネをかけていない顔は女性のスッピンより恥ずかしい」
それは、素敵なメガネ屋さん、素敵なメガネに出会ったからだ。
ぼくはメガネザル。
いまではここ一番というときにしか掛けないメガネがある。そのメガネは20年使っている。20年経った今でも初めてかけたときの衝撃をしっかりと思いだせる。やっぱり見えるほうがいいだろうと、泣く泣く選択したメガネ生活。わらをもすがる気持ちで友人に相談した。
「メガネかけなきゃいけなくなったんだけど、いいお店知らない?」
当時京都で学生をしていたその友人はメガネ屋さんでアルバイトをしていた。
「じゃあ京都に遊びに来ればいい、今のメガネは楽しいぞ」
いや、そんなはずはない、メガネが楽しいなんて。疑心暗鬼で京都のメガネ屋さんをいくつか一緒に見て回った。正直、一軒目のメガネ屋さんですでにその疑心暗鬼は吹っ飛んでいた。目からうろこ、天と地がひっくり返る。とにかく衝撃的だった。スタイリッシュで、オシャレな店内にカラフルなメガネがびっしり。接客してくださる店員さんもカッコ良かった。勧めてくださるメガネが全部素敵に見えた。
それが、一人のメガネバカ誕生の瞬間。
ぼくはメガネバカ。
「お久しぶりです。」
約2年ぶりにご来店いただいたその男性は、友人に当店を紹介されメガネを購入していただいた方。
「今回はどんなイメージに変えてみましょうか?」
いつものように、いろいろなメガネをご紹介した。前回と違って今日はお連れの女性の方が一緒にご来店だった。お連れの方の反応を気にしつつ、いくつかのメガネを案内した。
「実は結婚する事になりまして・・・・」
「それはおめでとう。」
「で、今日は結婚式の時に掛けるメガネを選びに来たんです。」
「えっ」
聞いた瞬間、いろんな感情が駆け巡った。結婚を祝福する思いと、その門出をお祝いする日に掛けるメガネを選ぶという大役の重責。そして何より、そんな大事な日のためのメガネを任せてもらえるという幸せ。メガネ選びはいつも以上に楽しく、うれしかった。
ぼくも自分の結婚式ではメガネのお色直しをした。その話を以前にしたかどうかも覚えていない。でもこのお客様は「店長さんのように僕もメガネのお色直ししようかなって思うんです。」
そうおっしゃった。
人生でいくつかの大事な時間があると思う。結婚式は間違いなくその1つだと思う。その大事な時を一緒に祝えるメガネをお選びする機会を与えていただいた事を心の底から幸せに感じた。
ぼくは本当にメガネバカだ。
Eyewear shop ami オーナー
古田 貴志